ゼロの愛人 第1話 |
『大変よスザク君!今すぐ生徒会室に来て頂戴!』 『枢木卿、急ぎ学園へ来てください』 『異常事態発生、至急機密情報局へ出頭願います』 行政特区日本の再建のため、100万人のゼロが蓬莱島へ渡ったその日の午後、矢継ぎ早に入った連絡は、どれもアッシュフォード学園に来い、という内容だった。 生徒会からはミレイが代表で連絡をしてきて、あとはロロと学園地下に待機している機密情報局の者からだった。 まだあの式典の後始末も、始末書の類も何も終わっておらず、トウキョウ政庁は混乱を極めているのだが、スザクの任務の優先順位は、トウキョウ政庁やナナリーよりも、アッシュフォード学園で監視している餌・・・ルルーシュだった。皇帝からの勅命であり、極秘任務でもあるため当然周りに詳しい説明などできるはずもなく、ジノとアーニャに皇帝の勅命で一時この場を離れる事だけ告げ、クラブハウスへとやってきた。着替える暇も惜しいと、ラウンズの騎士服のまま生徒会室へ駆けこむと、そこには生徒会メンバーだけではなく、ヴィレッタもいた。 「会長、何があったんですか?・・・ロロ?どうしたんだい?」 スザクが顔を出したことで、幾分か明るい表情となったメンバーとは違い、ロロはその大きな眼からぽろぽろと大粒の涙をこぼし、嗚咽を漏らしていた。 とても演技とは思えない様子に、スザクは僅かに動揺した。 そんなロロを慰めているのはシャーリーとリヴァルだった。 「スザク君、これ見て頂戴」 ミレイが差し出したのは、アジサイを思わせるような綺麗な紫のグラデーションが入った便せんで、そこには綺麗な文字が並んでいた。 愛するロロへ。 何も言わずに去る愚かな兄を許して欲しい。 お前には話した事はないが、俺は主義者だ。 常々、ブリタニアの弱肉強食を国是とし、人の尊厳を踏みにじる植民地政策に憤りを感じていた。 その思いを胸に秘め日々を過ごしていたのだが、以前より密かに連絡を取り合っていた者から、もしブリタニアから離れる覚悟がるのなら、今日、行政特区の式典に来るようにと打診されていた。 式典に行くという事は、ロロ、お前から離れるという事だ。 ずっと悩んではいたが、俺は式典に参加する事に決めた。 もし、お前がナナリー総督のように体に問題があり、俺が生涯をかけ守らなければという状況であったなら、俺はこの思いを胸に秘め、お前と共に生きただろう。 お前を守り生きる事を望んだだろう。 だが、お前は元気に育ってくれたし、気付けばもう高校生だ。 一人の男である以上、いつまでも俺が傍にいるのはお前のためにもならないと考えていた。俺はお前に対して、普通ではあり得ないほどの家族愛と執着を示している自覚があったから、尚更だ。 すまないロロ。 俺の行動は、たった二人きりの兄弟であるお前を苦しめるかもしれない。 だが、俺はこれ以上自分に嘘はつきたくはないんだ。 俺の事を嫌ってもいい、恨んでもいい、蔑んでも構わない。 でも、お前の事は、たとえどれほど離れていても愛しているよ。 ルルーシュ 「・・・これ、は・・・」 それはルルーシュが、日本人と共に蓬莱島へ渡った事を示すものだった。 あの中に、ルルーシュが?いや、ルルーシュがゼロなのだから・・・やはり記憶が・・・こんな内容でごまかされると思っているのか!? 思わず手に力がこもり、美しい便箋はぐしゃりと握りつぶされた。 あの式典はテレビ中継がされていたため、何が起きたのかは・・・ゼロが100万人の日本人を連れ、エリア11を離れた事は、皆知っていた。 「スザク君、どうにかルルちゃんを連れ戻せないかしら?」 いつになく顔色を無くしたミレイがスザクに尋ねた。 蓬莱島に行った時点で、ブリタニアに牙を剥いたことになる。 戻ってきたらただでは済まないだろう。 主義者である以上、その思考は危険だと刑務所に入れられる可能性が高い。 たとえ、未成年でもだ。 それが解っていても、ミレイ達はルルーシュを連れ戻せないかと、不安げな視線をスザクへ向けてきた。 連れ戻す。 連れ戻さなければならない。 なぜならルルーシュがゼロ。 この鳥かごの中で飼育されていなければならない存在なのだ。 だが、彼が向かった蓬莱島は、完全な敵地。 いかにラウンズと言えど近づくことなどできはしない。 (ランスロットで強襲をかけて・・・いや、動くとなれば陛下の許可を・・・) スザクは手紙に視線を落としながら、唇をかみしめた。 記憶が戻っているにせよ、戻っていないにせよ、ルルーシュはここを離れてしまった。 アッシュフォードと言う名の鳥かごから、紫の瞳の黒鳥が逃げ出したのだ。 どうしたらいいのだと、ヴィレッタが不安げな表情でこちらを見てきたが、どうすべきなのかなんて解るはずがない。 「・・・もしかしたら、乗り遅れた中にルルーシュがいるかもしれない。思いとどまって戻って来る可能性もあります。僕は一度政庁に戻り、そちらを調べてみます」 手紙をミレイに返すと、スザクは駆けだす様にしてその場を後にした。 |